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東京地方裁判所 昭和53年(行ク)99号 決定 1979年3月27日

原告

三宅妙子

被告

国税不服審判所長

被告の本件広島地方裁判所への移送申立てを理由なきものと認め、次のとおり決定する。

主文

本件移送の申立てを却下する。

(裁判長裁判官 藤田耕三 裁判官 菅原晴郎 裁判官 北澤晶)

移送申立書

原告 三宅妙子

被告 国税不服審判所長

外一名

右当事者間の昭和五三年(行ウ)第七二号行政処分取消請求事件について、被告国税不服審判所長は、次のとおり申立てをする。

申立ての趣旨

本件訴訟中、被告国税不服審判所長に対する裁決取消しの訴えを広島地方裁判所へ移送する

との裁判を求める

申立ての理由

被告国税不服審判所長は、同所長がなした裁決の取消しを求める訴えを民事訴訟法三一条の規定により広島地方裁判所へ移送することを求めるものであるが、その理由は次のとおりである。

一 被告国税不服審判所長が本件裁決をなしたこと及びその行政庁の所在地が東京都であることは原告主張のとおりであるところ、行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)一二条一項によると本件裁決の取消訴訟について東京地方裁判所に管轄権のあることは明らかなところであって、被告国税不服審判所長が右の移送申立をしているのは管轄違いを理由としているものではない。

二 すなわち、行訴法一二条三項は「当該裁決に関し事案の処理に当たった下級行政機関の所在地の裁判所」にも管轄権がある旨を規定しているところ、右の「事案の処理に当たった」とは、単に処分庁の依頼によって資料の収集を補助した程度ではなく、その処分の成立に関与したことをいい、その関与する根拠が法令によると内規によるとを問わないこと、また右の「下級行政機関」とは、当該処分庁と上級下級の関係にある行政機関を指し、いわゆる行政庁であると内部的組織法の機関であるとを問わない趣旨であると解されている(杉本良吉著、行政事件訴訟法の解説四九ページ)。

ところで、国税不服審判所には、国税通則法七八条三項の規定により「所要の地に支部を置」き、その支部には広島国税不服審判所というように各支部別の名称が付され、その事務を総括するための首席国税審判官(広島国税不服審判所長という。)が置かれている。右のように各支部が置かれたのは納税者の便宜と事件処理の能率等を考慮したものである。

また、国税通則法一一三条は「国税不服審判所長の権限は政令で定めるところにより、その一部を首席国税審判官に委任することができる」と規定し、これを受けた同法施行令三八条によって裁決権を除き大幅にその権限が委任されている。

すなわち、広島国税不服審判所長(その管轄区域は「国税不服審判所組織規程」で定まっている。)は、適法な審査請求について裁決する場合、同所長がその所属する国税審判官等のうちから担当審判官、参加審判官等を指定し(国税通則法九四条)、担当審判官等が調査、審理し(同法九七条)、その担当審判官等が審査請求に理由があるかどうかを議決し(同法九八条三項)、その議決に基づいて本部国税不服審判所長が裁決するのである。本件裁決も右の議決まではすべて広島国税不服審判所の所属職員によって事務処理されている。これは法令に則ってその事務処理がなされているのであって、「たまたま」関与したものではない。

右のように、広島国税不服審判所長が担当審判官の指定通知等をなすなど、本件審査請求の事務手続において対外的には独立の行政機関として機能していることからみても、行訴法一二条三項にいう「下級行政機関」に該当することは明らかである(ジュリストNo.四五一-三二ページ参照)。

本件裁決は、広島国税不服審判所にその審査請求がされ、同審判所において右の調査審理及び議決がされ、右議決に基づいてなされたものであるから、実質的な事務処理が同所でなされたといえる。

よって、本件裁決の取消訴訟については広島市内に所在する広島国税不服審判所の所在地の広島地方裁判所にも裁判管轄が存在するものである。

三 本件裁決取消訴訟における争点は国税通則法九六条二項に規定する閲覧請求に関するものであるが、同法によれば閲覧請求は担当審判官に対し求めるものであるから、担当審判官等が将来証人として申請されることは容易に予測されるところ、右担当審判官等は広島国税不服審判所に勤務しており、またその他本件裁決の実質的な関与者らも広島市方面に居住している関係から、本件訴訟を御庁で審理されることは、いたずらに費用を費やすばかりか、更には原告も含め訴訟準備に相当の期間と手数を費やさざるを得ない結果となり、審判に著しい遅滞を招来することは明白である。

四 以上の次第であるから、右の著しい損害及び遅滞を避けるため本件裁決取消訴訟を分離の上管轄権の存在する広島地方裁判所へ移送することを申し立てる次第である。

昭和五三年一一月六日

被告国税不服審判所長指定代理人

竹内康尋

三上正生

東京地方裁判所 民事第二部 御中

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